Dr.Kのあゆみ Vol.24(クリニック勤務の始まり)
今回のブログはこれまでの「Dr.Kのあゆみ Vol.1~23」の続きになります。
「Dr.Kのあゆみ」シリーズVol.1はこちら
「Dr.Kのあゆみ Vol.23」はこちら
クリニック勤め開始
人生初の会社勤めを経て、今度は人生初のクリニックの常勤となりました。再度上京するにあたり、部屋探しをしました。職場のあった秋葉原と羽田空港への行きやすさを考えて、都営浅草線と日比谷線の交点であった人形町で部屋を探すことにしました。駅が近く、間取りと家賃が希望通りのマンションを発見したのですが、すぐに埋まってしまいました。他を見てみてもどうしてもそこより良い物件がなく、不動産屋にも、あのマンションを超える物件に出会えないと嘆いていました。すると、そのマンションの他の階が空いたとのことですぐに連絡してくれました。今一番手なのですぐに返事をしてもらえたら借りることができ、その猶予は明日までだということで、急遽翌日上京し内見をして、一目で気に入り部屋を決めました。
クリニックでは、理事長先生と、週1回の非常勤の先生、そしてもう一人常勤の先生がいらっしゃったのですが、体調不良で勤務が難しいということで、入れ替わる形で私が入りました。
週休2日で、最初は週に1回は理事長先生、1回は非常勤の先生が外来を担当していたので、私は週4日の外来担当からスタートしました。
こういう形でクリニックで常勤として働くことは、初めてだったのですが、病院時代と違って、プレッシャーだったことがあります。病院時代には気づかなかったのですが、病院は「大病院で診てもらっているから安心」と患者さんは、医師というよりは背景の病院への信頼で来院している方が多いことに気がついたのです。一方、クリニックでは、立地などもありますが、内科のクリニックもたくさんありますので、ダイレクトに「私の外来に来たいか、そうでないか」と、自分の外来がもっとシビアに評価されている感覚がありました。また、患者さん数も自分の評価と比例する気がして、特に始めの頃は患者さんが来てくれるかどうかをとても気にしていました。患者さんが自分の意思で選択して、自分が勤務するクリニックを受診してくださることがとてもありがたいことだと実感しました。
夢の平日休み
クリニック勤めでは、木曜日と日曜日がお休みでした。会社勤めの頃も、希望すれば平日お休みとなったのですが、コンスタントに平日休みとなった職場は初めてでした。平日の休みは、役所に行けたり、歯医者さんに通えたり、とても便利で嬉しかったのを覚えています。この後出てくるミュージカルのど自慢大会への出場をきっかけに、私は改めて歌を習い始めました。ニューヨークでは、ゴスペルを習っていたのですが、歌の個人レッスンをきちんと受けるのは高校生以来でした。生徒数も比較的多く、年に2回は発表会もあり、発表の場も多い教室でした。渋谷に教室があったので、夢の平日に渋谷を歩き、デパートへ行き、それは毎週特別なことをしているような感じがありました。
ミュージカルのど自慢大会
クリニック勤務が始まって、歌を習い始めたきっかけとなったのは、東宝が主催するミュージカルのど自慢大会に出場することが決まったからでした。たまたまミュージカル大好きな先輩が、東宝が主催するミュージカルのど自慢大会があることを教えてくれました。まず歌っている動画を送って応募し、オーディションに通過した人が全国4都市の劇場で歌い、最後選ばれた人が帝国劇場で歌えるという大会でした。あまり細かいことは覚えていないのですが、各都市20人弱が歌い、数名ずつが帝国劇場へ行くという形であったと思います。歌っている動画を撮影し、送ったところ、名古屋会場で歌えることになりました。本番まで、もう時間がなく、慌てて歌のレッスンへ通い始めました。
本番前日に名古屋入りしました。当日は、リハーサルはあるのですが、各自出だしのみ流されワンフレーズくらいしか歌えませんでした。マイクや立ち位置などを確認し、終了です。客席に座り、出番が近づくと舞台上の椅子へ移動し、出番が来ると歌い始めます。出番が近づいても体を動かしたりができずに、体も硬く緊張したまま本番を迎えました。全員が同じ条件でしたが、自分の筋肉なのに自分でないような、そしてスポットライトの中に閉じ込められたような感覚で、とても怖い感覚があるまま、あっという間に自分の歌が終わっていました。正直、何もかもが自分自身でうまくコントロールできなくて、どんな条件でもきちんと実力を出すプロの方は本当にすごいと改めて尊敬し直しました。歌をますますきちんと習いたいと思ったと同時に、歌を生業にするというのは本当に大変なことなのだと体感することができました。このミュージカルのど自慢大会は、自分の実力がわかり、私にとっては、わずかに期待していた「音楽の道」というのを、良い意味で諦めて、趣味にしようと思った良いきっかけとなりました。とはいえ、歌が好きなことには変わらないので、趣味で歌うことは大切にして、歌を本気で上手になりたいと改めて思いました。
歯科矯正を始める
アメリカにいた頃、多くの方が歯並びがよくてびっくりしました。日本のように保険診療で気軽に歯科医院に通えないアメリカは、とにかく自分の歯をとても大切にしている印象がありました。語学学校の先生もよく歯のクリーニングに行っていました。ある程度の経済力があれば、子供の頃に歯科矯正をするのが一般的だと聞きました。私は中学生くらいまでは比較的歯並びは良かったのですが、親知らずが生えたあとから歯並びが悪くなってきました。アメリカ人の歯並びを見て、私も歯科矯正をしたいと思うようになりました。
大学時代、歯学部を卒業して歯科医として働いた後、医学部に入学した同級生が、歯科医のアルバイトをしていたので、下に生えている親知らずを2本抜いてもらいました。下の歯の親知らずは、斜めに生えていて、切開して抜歯したので、縫合まで行い、比較的大変な処置でした。その印象があったので、今回の矯正にあたり、上の歯の親知らずを2本抜くということで、とても警戒していました。上の歯はまっすぐに生えていたようで、麻酔をして、1本1分もしないうちに抜き終わり、縫合もなくそのまま終わったので、拍子抜けしました。
矯正治療は、通常の金属のワイヤーを使うタイプや、歯の裏側にワイヤーをするタイプ、目立たないタイプの白いワイヤーを使うタイプ、マウスピースタイプなど、それぞれメリットデメリットをもった多くの種類がありましたが、私は費用面、矯正期間が比較的短く済むという理由から、昔からのイメージにある、金属のワイヤータイプの矯正を選びました。
矯正が始まったのですが、事前に説明を受けていた矯正に伴うリスクの中の1つ、歯髄壊死というものが前歯に起きました。歯髄壊死というのは歯を栄養する血管が断裂することで、歯に栄養が行かなくなるため歯髄が壊死することです。歯髄壊死が起こると神経を除去する治療が必要になります。(虫歯が神経まで達している時に、神経を抜髄して、その後その中を綺麗にする根管治療をするイメージです。)
ある日、前歯が綺麗なピンク色になっていました。最初は、綺麗なピンク色だったので、あまり悪い感じがせず、少し様子を見ていましたが、だんだんと色が黒っぽくなってきたので、歯科医院を受診したところ、歯髄壊死を起こしていると言われました。
事前に矯正に伴うリスクをしっかり説明してくださっていたので、「聞いてたなぁ」と思うとともに、そこまで多くない合併所が起きてしまって「残念だなぁ」と思いました。事前にきちんと説明をしておくということは、相手の心構えにもつながり、急なことでも驚きが多少小さくなる(なくなることはないですが)という点ではとても大切なことだと改めて思いました。聞いておくのと、聞かされていないとでは、大きく違うなぁと思い、自分が治療する立場になった場合も説明はとても大事だと思いました。
患者さんへの説明で思うことがあります。特に病院では医師の仕事は細分化されており、自分の専門の分野を徹底して診ていくことになります。外来をやっていても、同じような疾患の方をたくさん診ることになります。医師側にとってみれば、自分が診ている疾患は日常の中で馴染み深く、だんだん患者さんにどこまでの知識があるのかわからなくなっていく面があると思います。患者さんにとっては、その病気にかかるということは、人生でのとても大きな出来事ですし、自分や身近な人の身に起こるまでは聞いたことさえなく、イメージもしづらいかと思います。医師側と患者さん側で、同じ病気に対しての馴染み度が違うので、医師である自分自身が慣れているとしても、聞き慣れていない相手に説明するという意識を常に忘れないようにしようと思います。限られた外来での時間の中で、わかりやすく説明するというのは、ずっと課題です。
矯正治療の話に戻ります。歯髄壊死の治療も行い、ピンクから少し黒目の色になった私の前歯は、無事漂白してもらい、ほぼ変色は目立たなくなりました。よく、周りの人からブロッコリーが歯に詰まったり、カレーは色がついて食べにくいから避けた方が良いなど色々なアドバイスをもらっていましたが、私は特に何を食べても、問題がないことが多く、とても快適に過ごすことができました。常に少しは違和感はあり、たまに口内炎にもなっていましたが、あまり気にならず、治療前に思っていたよりも平気でした。2年半ほどで全て終了しました。終了し、ワイヤーを外した時の爽快感と、心許なさを覚えています。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。自分が患者になる経験というのは、とても学ぶことが多いと感じます。今回は、新しい職場での仕事が始まりましたが、この時は、まだホリスティック医学という言葉も知りませんでした。次はクリニックで新たな出会いが待っています。次回もぜひご覧いただけると嬉しいです。
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