Dr.Kのあゆみ Vol.25(クリニックでの新たな出会い)
今回のブログはこれまでの「Dr.KのあゆみVol.1~24」の続きになります。
「Dr.Kのあゆみ」シリーズVol.1はこちら
「Dr.KのあゆみVol.24」はこちら
Kさんとの出会い
勤務したクリニックは、私が担当していた保険診療の内科の一般外来と、特殊な自由診療をやっていました。自由診療の方は基本的に理事長が担当していたのですが、理事長は将来的には私にと思っていたようで、自由診療の診察が始まると同席するよう呼ばれました。当時、理事長は自由診療の方に力を入れており、私が一般外来をやっている時も「一般外来は後で良いから自由診療の方へ来なさい」といった具合に呼ばれるのが、私はあまり好きではありませんでした。
ある日、クリニックの隣にある歯医者さんから紹介されて来たということで、60歳前後の1人の男性(Kさん)がクリニックを受診しました。診察をしている時に、例により理事長から自由診療の方に来るようにと言われました。この時、Kさんの診察を始めたばかりなので、すぐには行けず、「今診ている方の診療が終わってからすぐに行きますので、先に始めててください、と理事長に伝えて。」と看護師さんへ伝えました。理事長はすぐに私の診察室へ裏から入ってきて、「いいから早く終わらせてこっちへ来て。」とKさんのいる場で言い、すぐにその場を離れました。
私は「今の理事長の言葉はKさんに聞こえたかもしれないな。Kさん、気を悪くしただろうなぁ」と思ったので、かえって早く終わらせることができなくなってしまい、開き直ってゆっくり診察しました。
診察が終わり、自由診療の方が終わった後も、Kさんに申し訳ない思いでいっぱいでした。
次に外来にKさんが来てくれた時には、本当に嬉しかったのを覚えています。
不快な気持ちで帰られていたら、おそらくもう受診してはくれないだろうと思っていたからです。そうして、Kさんはその後も通院してくれるようになりました。
ある日、Kさんからクリニックのやっている自由診療に興味があるから、話を聞かせて欲しいという申し出がありました。自由診療の方を担当している男性の事務スタッフへ早速お話をして、セッティングしてもらうようにしました。
Kさんと事務スタッフが話をしている中で、Kさんはクリニックの近くの会社の社長さんで、ビルもたくさん所有するすごい方だということがわかったようです。後で、理事長が、「K先生、Kさんが◯◯の社長さんだって知っていたの?」と言いながら、Kさんに対する態度を変えて、話しかけてきました。
Kさんが何をやっている方かは知りませんでしたし、正直そんなことよりも私の中では、不快な思いをさせたかもしれないという思いが強くて、引き続きクリニックに来てくれただけで嬉しい患者さんでした。ただ、社長さんだからとか、そういうところで態度が変わることが苦手だったので、理事長に「先日、診察中に早く終わらせてとおっしゃった、その時の患者さんがKさんです。社長さんだからとかではなく、患者さんが誰であれ、患者さんの前で聞こえるようにそういうことは言わないでください。」と伝えました。私はこれまで、こういうことをはっきり伝えるタイプではなかったので、自分でも驚いたとともに、とても嫌だったのだと思います。
のような経緯があって、Kんは私にとってはとても印象深い患者さんだったのですが、自由診療の方にもご夫婦で通ってくださることになり、比較的頻繁にお会いすることになりました。Kさんの会社はクリニックのすぐ近くにあり、Kさんの会社の飲み会などに、私たちクリニックのスタッフを呼んでくださるようになりました。私はこれまで、患者さんと交流をもったことがなかったので、最初は抵抗がありましたが、Kさんのご家族、Kさんの会社のスタッフ、クリニックのスタッフで食事しながら分野の違う色々な話を聞くのがとても楽しみになっていきました。
Kさんからは、経営のこと、人としての哲学を沢山学ばせてもらって、クリニックを退職した後も、交流は続き、今では私の師匠でもあり、友人のようでもあり、父のようでもあるかけがえのない存在です。少し、ハラハラする出会いでしたが、後に、最初の診察のことをKさんに尋ねると、「そんなことあったかー?」という感じで覚えていないようで、聞こえていなかったのかな、とホッとしたのでした。
採用面接の難しさ
クリニックで看護師さんの採用面接が何度かあり、私も同席したのですが、思ったよりも採用の面接をするのは難しかったです。一緒に働く上で、最低限の理念の共有ができる人で、色々な考え方をもっている人を仲間に迎えるために、短時間で相手の考え方などを知ることは、それだけで一つのスキルだなぁと思いました。第一印象と、履歴書から受ける印象はもちろん大切で、この二点にあまり差がない場合は面接が全てなので、困りました。結局自分たちが「どういう理念をもって、どういう人を仲間として必要としているか。」というところを明確することが大事で、そこに向き合って答えをだしていなかったから、難しかった面もあったのでしょうか。今後、また採用面接を担当する機会があれば、そこを意識して準備したいと思っています。
このクリニックでは、自分で開業しなければ経験できないようなことを経験させてもらい、本当に勉強になりました。
漢方薬との出会い
私は医師になってから西洋医学の場にずっといたので、漢方薬を処方したことは、数えるほどしかありませんでした。外科をまわった研修医時代に、腹部の手術の後に大建中湯という漢方を処方したり(自分の意思ではなく、「処方することになっていた」というのが正確なところです)、足がつる方に芍薬甘草湯という漢方を処方したりしたことはありましたが、正直自分で漢方薬を飲んだこともなければ、患者さんから希望がある時のみ、風邪の時に使う葛根湯などを処方していた程度で、漢方薬に対する知識は全くありませんでした。
クリニックに勤めてからは、理事長が、「柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)」という漢方薬をとても信頼していて、その薬をよく使っており、私にもこのような患者さんが来たらこの漢方を使うようにというアドバイスがありました。しかし、東洋医学の基礎はわからないまま、柴胡桂枝湯が効いていた患者さんの症状と同じ症状をもつ患者さんに処方をし始めたのでした。
「他の病院でもらったことがある漢方薬を処方してください。」と患者さんから希望があり、見てみると漢字の読み方すらわからないということもしばしばありました。「漢方の勉強をした方が良いなぁ」と思っていたところに、漢方の勉強会への誘いがあり、行ってみることにしました。すると、イントロダクションで「西洋医学は一神教の考え方と思えば理解しやすく、基本的に一つの病気に単一成分の薬を処方して治療する、一方東洋医学は多神教の考え方で、色々な個性をもつ生薬の組み合わせで、病気に対してではなく、現在の状態(=証と言います)に対して多方面的なアプローチで治療する。」といった内容のお話がありました。そのイントロダクションですっかり心を掴まれた私は東洋医学に魅了されていきました。その勉強会を契機に、まずは自分の症状に対して、漢方薬を飲んでみて、その効果を体感してみようと思いました。当時私は、正直、「漢方ってそんなに効かないんじゃない?」くらいに思っていました。
初めて漢方を飲むチャンスが訪れました。冬場に寒気がして喉がチクチク痛く、風邪をひきそうだなぁと思った時に「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」という薬を飲んでみました。すると、体が温まり、翌朝には症状がなくなって元気でした。今までであれば、風邪をひくパターンだったのに、持ちこたえました。偶然かな?と思いましたが、何度か同じ状況の時にこの薬に助けてもらったことで、偶然ではなく、薬が効いているのだとわかりました。今では、風邪の時に飲む漢方がとても沢山あることを学びましたが、当時は風邪をひきそうな時はひたすらこの薬を飲み、風邪をひかずに済むことが増えました。
また、ある日車を運転して、友人を送っていた時のことです。私は自分が運転している時に酔うことはないのですが、珍しく酔ってしまったのか、吐き気が出てきました。途中のコンビニで、常温の水を買って、たまたま持ち合わせていた「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」という薬を飲んでみました。すると、吐き気が治ったのです。短時間のことで、明らかに漢方が効いた感じがありました。「吐き気=半夏瀉心湯」というわけではないのですが、当時たまたま半夏瀉心湯が合う状態だったようで、症状をピタッと止めてくれたのです。
こういう風に、何度か効果を実感する経験をすることで、漢方を患者さんにも処方したくなっていきます。しかし、まだ私はどういう風に漢方を選び処方して良いのかわかりませんでした。そこで、夏休みを使って大学病院の東洋医学研究所の夏季セミナーを受けに行くことにしました。この時がちょうどクリニック勤務を初めて、2年弱経った頃でした。
不思議なご縁
大学病院の東洋医学総合研究所の夏季セミナーを受け、ますます東洋医学に興味が湧きました。これまで、西洋医学で「不定愁訴」として、あまりうまく対応できていなかったように感じていた部分が、漢方治療ではカバーできるような感じを受けて、私自身とても期待しました。しっかり東洋医学を勉強したいなぁと思い始めた頃、製薬会社の勉強会の案内がありました。当時、私はあまり製薬会社の勉強会には参加していなかったのですが、その時はたまたま気が向き、参加しました。勉強会の後は懇親会があることもあり、通常一人で勉強会に参加した時は懇親会は参加せず早く帰るのですが、一人で勉強会に参加した後でしたが、どうしてもお腹が空いており、たまたま懇親会まで参加しました。こうして「たまたま」参加した勉強会の、「たまたま」参加した懇親会で、私は新たなご縁に恵まれたのです。
研修医時代の1学年後輩のお父さんが、漢方界の有名な先生であることは聞いたことがあったのですが、そのお父さん先生がたまたま懇親会にいらっしゃっていました。今でも、自分がどうしてお会いしたことのないお父さん先生に声をかけたのか、不思議なのですが、「◯◯先生、初めまして。Kと申します。息子さんと一緒に働かせていただいていました。」とご挨拶し、何気ない日常会話で終わろうとした時、私はとっさに「実は漢方に興味があり・・・」と切り出すと、お父さん先生は「それはまた話が変わってくるね」と言いながら、親身に相談に乗ってくれ、ある大学病院の東洋医学研究所の夏季セミナーを紹介してくれました。そのセミナーの存在はその時知らず、セミナーは1週間後に迫っていました。私は慌ててセミナーに申し込み、ギリギリセーフで駆け込みました。また、お父さん先生は、将来入局希望のようだとも話してくれており、夏季セミナーの時には、もう入局希望者として話が進もうとしていました。こうして、新たな進路を考える時はふいに訪れました。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。突然、新たな出会いと道が見えてきました。次回もぜひご覧いただけたらと思います。よろしくお願いいたします。
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