医学・健康について思うこと

「医学・健康について思うこと」Vol.16(90歳代の患者さんたちから生き方を教わる)

生き方を教わる

「医学・健康について思うこと」Vol.16(90歳代の患者さんたちから生き方を教わる)

在宅診療の患者さん


私は週に1回、在宅診療を行うクリニックで診療しています。
おかげで、人生の大先輩である御高齢の方に会う機会が多くあります。
患者さんが皆個性的でそれぞれ素敵で、「どういう形で歳をとってもアリだなぁ、歳を重ねるのも悪くないなぁ」と思います。

そんな個性豊かな患者さんからパワーをもらう機会も多く、後輩として「私も負けてはいられないなぁ!」と思います。
今回は、個人情報がわからないような形で、患者さんからパワーをもらったエピソードについて書いてみようと思います。

92歳女性の患者さん


施設にいる92歳の女性の患者さんです。
仮にTさんと呼びます。
緑内障で両目が見えないのですが、とてもしっかりしていて、私のことは声ですぐにわかってくれます。

Tさんに接する時は、Tさんの世界が「耳」からの情報で出来上がっているので、音にはとても注意しています。
特にスタッフ同士で話す内容によっては心配になるだろうなぁと思うので、Tさんと関係のないことは発しないようにしていますし、必ず本人が聞いても心配にならないようにしています。

Tさんはご自身の体のことがとても良くわかっていて、病院に入院することが嫌いだと聞いていました。
普段は多少熱があっても、「大丈夫だよ、これは」と本人が言って、在宅でできる範囲で対応していたのですが、ある日、発熱があるということで往診したところ、肺炎を疑う状況でした。

するとTさんが、「これは、病院へ行った方が良いと思うけどな」と言うのです。
私は、病院嫌いで普段の自分の体のことを良くわかっているTさんがそう言うなら、迷いなく入院加療をお願いした方が良いだろうなぁと思い、入院となりました。

比較的重症な肺炎だったようで、「御高齢なので、施設に戻って来られるかなぁ?」と心配しました。
2週間すぎた頃に、入院前と変わらない状態で帰っていらしたのです。
嬉しかったです。

そんなTさんが1ヶ月前に転倒してしまったようです。
左膝が腫れて、整形外科で血を抜いてもらったと言っていました。

Tさんは目は見えませんが、しっかり歩いて、施設で行うクイズなど、他者を寄せ付けず圧倒的に全部答えるほどの92歳とは思えないほどなのですが、膝が腫れて痛みで動けない様子を見て、今回はもしかしたら歩けなくなるかもしれないなぁと思ったりしました。

2週間後、「その後どうかなぁ?」と心配しながら施設に往診に行きました。
そうすると、施設の方が、「お待ちかねです。膝の痛みが良くなって、張り切ってリハビリしていますよ。」と教えてくれました。

Tさんからは「もう痛みがないから、歩いているよ」と言われました。

肺炎も、膝の打撲も、若い私たちであってもなかなか大変でくじけそうな状態なのに、92歳のTさんのカムバック劇とそれを支えるモチベーションに感動しました。
「自分の体の状態を自分で良く知る」ことの大切さもTさんが教えてくれました。

98歳男性の患者さん


お次は98歳の男性です。
「100歳まで生きる」と常々目標を掲げています。
仮にYさんと呼びます。

Yさんは良く食べ、良く歩き、施設の問題点を見つけては、職員に問題点を教えることが日課です。
そんなYさんがふらついて腕を怪我することが増えてきました。

採血を行うと、高度の貧血がありました。
正常の値の半分にも届かないほどの高度の貧血でした。

毎日歩いていましたが、だんだんと横になって過ごすことが増えました。
どこからか出血があるのかもしれませんが、年齢のこともあり、ご家族も病院での詳しい検査は希望されませんでした。

鉄を測ってみると、鉄が不足していることがわかったため、飲み薬で鉄剤を飲んでもらうことにしました。
そうすると、Yさんはどんどん元気になっていき、また元気に施設の廊下を歩き始めました。

最初は、うまく歩けず、Yさんが使いたくないと言い続けていた歩行器を使い始めました。
それから2週間後には杖になっていました。
今では廊下の手すりを時々つかまりながら、杖なしで歩いています。

今週、施設に行った際に看護師さんから「先生、Yさんの血圧は午前中に測定できませんでした」と報告を受けました。
何かあったのかな?と思って尋ねると、午前中の間ずっと廊下を歩いてらして測るタイミングがなかったとのことでした。

98歳のYさんに本当に感服しました。
診察の時に「午前中、廊下を歩いていらっしゃったと聞きましたよ」と言うと、Yさんが「最低でも2kmは歩くようにしているからね。私は四島返還と拉致問題解決とノモンハン事件が解決するまでは死ねないんだよ」とおっしゃっていました!!

「す、凄い・・・。ひょっとして私より長生きするのでは?」と負けてはいられないなぁと思いました。

ちなみに、Yさんは98歳ですが、ご自身が飲んでいらっしゃる薬に関しては、全て説明を求め、納得したものしか飲みません。
なので、常にYさんと相談して、その時必要な最低限の薬のみ処方しています。

Yさんの2歳年下の奥様も一緒に拝見しているのですが、お二人ともご自身が飲んでいる薬を見事に把握されており、「今回はこれは必要、これは不要・・・」などとしっかり教えてくれます。
便通コントロールも通常自分自身で薬をコントロールするのは簡単ではありませんが、薬の効果を説明して、使用できる上限をお伝えしておくと、見事にご自分でコントロールされます。

Tさん、Yさんご夫妻から学ぶこと


いつもTさん、Yさんご夫妻から感じることは、前向きに、自分の体を大切に暮らしていくことは年齢は関係がないとことです。
もしかしたら、若い頃からそういう心がけが影響しているのかもしれません。

この3人に共通していることは、全てを人任せにしないということです。

Tさんも自分自身で目が見えないにもかかわらず、ご自身が内服している薬はしっかり把握されています。
そのため、薬を変える時は必ずご本人にその理由も合わせて説明します。

運動に関しても人に任せず、自分自身で何とか体を機能させようとします。
きっと体はきついと思いますが、それでも気持ちが前向きで何とか自分の体を使える状態にしようと思う気持ちが強いように思います。

最近では、認知症の原因物質なども少しずつ解明されてきていますが、科学的な話ではありませんが、自分自身の体を人任せにせず、体がどんな状態でもできる範囲で機能を活かしながら前向きに生活していらっしゃる方は認知症になるリスクが低いのではないかなぁという印象を受けます。

私自身もそうですが、どこかで自分の体よりも心を優先してしまって、体の不調が起こった時は医師や薬が何とかしてくれると思いがちです。
90歳代の大先輩から、「自分自身で体を大切にする、自分の体の状態を客観的に見る」ことの大切さを教わりました。


今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました。
不思議なのは、この3人は長く生きることに前向きではあるのですが、執着している感じではないのです。

年齢によって体は変わっていきますが、現状の自分自身の体を受け入れ、その体を使って快く生活する日々が積み重なった結果長生きになったように思います。
素敵な人生のお手本が近くに沢山いて、私は幸せです。

最近は、また少し働き方が変わって毎日ブログを書くことが難しくなってきました。
これからは、週末の土日のどちらかの週に1回の更新を継続していこうと思っています。

最近、改めて漢方の面白さも感じており、漢方の勉強と、量子力学の勉強と、バイブレーショナルメディスンと、やりたいことがてんこ盛りです。
そして、自分自身の息抜きも兼ねてイタムくんスタンプも書いていきたいと思います。
当初と少しスタイルが変わりますが、今後もよろしくお願いいたします。
いつもありがとうございます。


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ABOUT ME
Dr.K
都内在住の30代女性。 内科医として、西洋医学・東洋医学を学び、現在都内で勤務医をしています。 自身が幼少期から気管支喘息、アレルギー体質であり、また大学時代の左前十字靭帯断裂後手術を受け、そして現在、変形性股関節症と向き合っています。 このブログでは、私自身が抱える健康問題に関して、西洋医学・東洋医学・代替療法・民間療法・スピリチュアル的なアプローチなど、興味が湧き、自分で納得したものを取り入れ、その結果をシェアしていきたいと思います。ゆくゆくはHolistic(ホリスティック)医学(=人間をまるごと全体的にみる医学)を提供できる医師を目指しています。